If ―もし、違う出会い方をしていたら―


I.生命の笑顔




気が付いたらもうここに立っていた。


周りには肩がスレスレですれ違う程の人の多さ。
でも、誰も自分の事を気にとめようともしない。
自分で言うのも何だけど、芸能人で今度10年記念で映画にも出させてもらっている。
今は帽子も被っていないのに、誰一人として気付かない。
自分の姿がみんなから見えていないのかと思えば、そうでも無いみたいで、
さっきボッーと突っ立っていたら、おじさんがぶつかってジロリと睨まれた。
街角のビジョンに映された事務所の先輩達。
どうやら、ちゃんと事務所は存在しているみたいだ。
じゃあ、自分たちは?と思って近くの本屋に入り、雑誌を物色して分かった。

存在しない。

抹消されたとか解散したそういう過去も残っていない。
元々存在しない。
まー君も
博も
いのっちも
剛君も
健君も
そして、俺も
俺達の帰る場所である“V6”という家も。

この世界は、“V6としての岡田准一は存在しない。この世界にはV6が存在しない”。

本屋を出て、空を仰ぎ見た。
空は俺達の世界と変わらない青い空。
街中を歩くと聞こえる

人の声。
携帯の電信音。
車のクラクション。
青信号の時に鳴らす音楽。

どれもありふれた音で、どこまでもそっくりな世界。
でも、違う。
胸を張って大手を振って街中を歩いても誰も気付かない。
V6というグループが無いということは凄い非常事態だけど、
V6が存在する世界では絶対出来ないことで、新鮮で胸がワクワクした。



どこへ行くのか目的も無いから、取りあえず小さな脇道に入った。
小さい頃、家の近所で普段通らない脇道とか小さい路地を通る時
“ここはどこに繋がっているんだろう”と胸をワクワクさせながら通った。
今もそんな子どもの頃の戻ったような感覚で、走り出した。
風を全身で感じて、光り射す方へ


路地を抜けた先は、さっきの人の多さとは打って変わって、人も少なく穏やかで緩やかな空気。
クルリと後ろを振り返ると、さっきまでの騒然とした街並みも見えず、
遥か向こうまで奥深くまで闇が広がっていた。
まるで、ここだけ隔離されているみたいで、さっきまでの胸を躍らせるような気持ちは消え、
一握りの不安を憶えた。

チッ、チッ、チッ

小さな時計の秒針の音が聞こえ、向き直る。
一体どこからと捜していた目線が止まった。
目線の先には店先に色とりどりの花が売られている小さな花屋さん。
確かにそれらも目を引くほど綺麗だが、俺が目を止めた理由。
それは…
健君が居たから。
店先で笑顔で花の世話をして、その笑顔は幸せそのものだった。
足が動いた。
勝手になのか、自分の意志なのか分からないが足は健君へと近づいていく。

そして、健君が気がついた。

「いらっしゃいませ」
(…え?)
ニコリと営業スマイルを向けられて出かかった言葉を飲み込んだ。
健君の反応は客に対する笑顔そのもの。
(そっか…V6の存在この世界では他人なんだ…)
足下の地面が無くなったような喪失感が胸に広がる。
「…どうかなさいましたか?俺の顔に何か付いてます?」
俺が何も言わずにただジッと健君の顔を見ていたのを不審に思い小首を傾げる。
「あ…いや、俺の知り合いによく似てたから…」
「ふーん」
歯切れの悪い答えに今度は健君がジッと俺の顔を見つめた。
見慣れている顔なのに見慣れない顔。
彼は健君に似ている健君。
似ているけど違う存在。
矛盾してるけどそうとしか思えなかったし、自分への説明の仕様が無かった。
「その人って俺とそんなに似てるの?」
今ここで似ていると言ってしまえば、健君と俺との間の何かが完全に切れるような気がして、
似ているという言葉で表現したくなかったからただコクンと頷き答えた。
「俺のそっくりさんの知り合いと最近会ってないの?」
「どうしてそう思うの?」
「だって…」
ちょっと伏し目になって、さらに話を続ける。
「寂しそうな顔してるから」
顔に出したつもりは無かったのに、健君にはバレていたみたいだった。
昔から、健君は人の感情というものに人一倍敏感で、人一倍心配してくれた。
だから気付いたんだ。
「俺は三宅健。キミは?名前なんていうの?」
「え?岡田准一…」
「歳は?」
「に、24…」
「え!?俺より年下!マジでー」
何の脈絡もない質問に戸惑いながらも答えると、“よし!”と言って慌てて店内へ消えた。

しばらくしてから、帰ってきた健君の手には小さな花がいくつもついている花束を持ってきた。
「ハイ、岡田!」
「え、え…?」
ズイと出された花束を持たされて、どうすればいいのか分からず健君を見る。
「岡田はそのスターチスって名前なんだけど、その花の花言葉知ってる?」
「…知らない」
「『変わらぬ心』」
健くんは人懐っこい笑顔を見せる。
今度は営業スマイルなんかでは無い、俺がよく知っている笑顔だ。
「その人に会ってた時に岡田がそんな寂しそうな顔してたら、相手が心配するよ。
だから、つらくっても寂しくっても笑っていようよ!“必笑”だよ“必笑”!
そうしたらきっと会えた日にはもっと笑顔になれるよ!
その花はいつも笑顔でいられるように俺からのプレゼント。」

健君がいつも言っていた“必笑”。
世界が変わっても俺の知っている健くんは存在している。
その言葉だけで、それが分かって嬉しかった。
「ありがとう、健君」
健君から貰った花束をしばし見つめてから花束の一本を抜き、健君に差し出した。
健君は訝しそうな顔で、首を傾げた。
「お花のお礼。」
きょとんとした顔をしたけど、すぐに弾かれたように笑い出した。
「フツー貰った物を貰ったお礼って言って渡す?!」
確かに普通は渡さないけど、健くんにもその『変わらぬ心』を持っていて欲しいから。
「健君には受け取って欲しいんや…」
そう言ったら笑っていたけど、“ありがとう”と言って受け取ってくれた。
「おーい、三宅くーん!」
店内から健君を呼ぶ声が聞こえて、健君が振り返り“はーい!”と答える。
そう言えば、健君は仕事中だったんだと思い出す。
「ごめんな。仕事中に」
「いいよ、別に」
「それじゃ、もう行くよ。お花ありがとう」
「こちらこそ。会えるといいな」
笑顔で言う健君に返答の言葉が詰まった。
本当は目の前にいる。 でも、彼は花屋の三宅健君だから…
「おん、ありがとう。じゃあね、健君」
「じゃあねー岡田!」
俺は手を振り健君と別れ、俺は俺の知っているみんなと会うために歩き出す。



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