Who am I?





今より遥か遠い遠い時代
アンドロイドと人間が共存するその時代
人間の手によって作られたアンドロイド。

そして、ここにも一体のアンドロイドが作られた。
人間の肌に限りなく近いシリコン制の肌。
全てを映し出す様な美しく研磨された水晶の瞳。
精巧に作られた人工声帯。
ただ、そのアンドロイドは他のアンドロイドとは決定的に違う場所があった。
それは人工知能。
他のアンドロイドは全てが人工思考回路…つまり全てが制作者のインプットされたもの。
しかし、彼の人工知能のベースはある人間の頭脳。
感情も
知識も
記憶も
全てを引き継ぎ生まれた彼は…


一体、『誰』なの。



最初に見たのは、眩しいばかりの“ヒカリ”だった。


「起きろ、長野」
さっき作られ目覚めたハズなのにその声に何かがこみ上げてくる。
寝台の上に寝かせられていた俺はその声に強制的に身体が動いた。
「・・・・。」
声の主は白衣を着た長身の男。
おそらく自分を作った制作者にして俺の主に間違いないだろう。
「あなたは…」
俺の言葉に長身の男の顔が曇った。
その時、何故か胸がチクッと針を刺す様な痛みを感じた。
すぐに自己メンテナンスを早急に行うが、何も異常は無い。
さっきといい、なんだろうこの痛みとこみ上げてくるものは。
「俺の名前は坂本昌行。お前を作った制作者だ。」
「それでは、あなたが僕の主ですね」
またしても、顔を一瞬曇らせた。
何か不具合でもあるのか?
「何かインプットしたプログラムと違いますか?」
「えっ?」
弾かれたように俺の顔を見るが、気まずそうにそして寂しそうに顔を背ける。
この顔だ。
この顔を見ると、胸を針で刺された様な痛みが襲う。
「・・・いや、何でも無い」
脈拍・体温、どの反応を見ても嘘を言っているのは明らかなのだが、
俺には問いつめることは出来ないし、必要も無い。
彼と俺は人間とアンドロイドの違いがあるのだから。
人間の感情はアンドロイドには分からないから

「それでは、昌行様…」
「ストップ」
突然、俺の顔の前に手を出し停止の命令を出した。
外気に触れている機関が彼の命令を受け、電子脳に音速の速さで伝える口を噤む。
「俺のことは昌行様なんて呼ぶな」
眉間に眉を寄せ、さっき俺を呼んだ声より低いトーンで言う。
「では、どう呼べばよろしいですか?」
基本の呼び方は名前に様付け、それがダメなら本人に聞く。
これは、俺達にとってセオリーみたいなもの。
「お前が呼びたいように呼べ」
「え?」
こんな答えが返ってくるのは予想と違いすぎる。
俺は驚いた表情を作る。
彼は俺の顔を見て、少し微笑んだ。
彼は俺の電子回路をショートさせたいのか?
「・・・・答えに困りますが」
これ以上電子脳を検索したら、本当に回路がショートしてしまう。
「じゃあ、俺のことは分かるまで“マスター”でいい。」
またしても、難問を突きつけてきた。
俺のことは分かるまで?
貴方の“何を”分かるまでですか?
「僕はまだ貴方のことに関しては、名前と主であるということしか知りません」
だから、俺に分かることは無い。
「・・・とにかく、呼び方は分かったか?」
「はい、分かりました。」
「なら、いい」

バンッ!

「坂本君!」
扉をぶち破る勢いでやってきたのは、
大量の書類を抱えて、彼と同じく白衣を身に纏った男。
身長はちょうど、彼と俺の間を取ったような身長。
黒ブチ眼鏡にボサボサの頭。
一昔前のような博士そのもの。
それに、特徴的な細い目。
脈拍が普通の成人男性よりも高いことから、走ってきたのが分かる。
「やっと、完成したんだー!」
持っていた大量の書類を近くの机に置き、眼鏡の位置を直しながらこっちに近寄ってくる。
「おぅ、一応ちゃんとした形になったよ」
「へーやっぱ、アンタ凄いよ!」
マジマジと俺の顔を見てくるが、敵意も殺気も感じない。
「マスター、彼はどちら様ですか?」
「あぁ、そいつは…」
「長野君にマスターって呼ばせてんの?坂本君」
彼の言葉に被るように彼より幾分大きな声で言う。
その言葉に彼は顔を顰め、答える。
「あぁ、そうだよ。それに井ノ原、ソイツは長野じゃない・・・・ヒロシだ。」
「そっか、そう・・・だよね。ごめん」
彼の返答にさっきまでの明るい顔が一変し、酷く落ち込んだ顔になった。
そして、またアノ痛みがチクリと胸を刺す。
「お気に障ることを言ってしまいましたか?」
何故だか、分からないがこのままにしておいてはいけない気がした。
何か言葉をかけなければならないとプログラムが動く。
「ううん、ヒロシは何も悪くないよ。」
ニッコリと満面の笑みに答えるように俺も笑顔を作る。
「俺の名前は井ノ原快彦。よろしく」
右手を差し出され、システムが少し停止する。
その態度はまるで人間に対することのように見えたから。
「握手してやれよ。ヒロシ」
彼の声が脳に伝わり、手が信号が行き動く。
「よろしくお願いします。井ノ原様」
「あーっとストップ」
またしても、ストップがかかる。
「俺のことは様付けで呼ばないで」
「じゃあ、さん付けはいかがですか?」
「うーん…まぁ、いいか」
「それでは、改めてよろしくお願いします。井ノ原さん」



これが、俺の生まれた時の話。
それからも、俺の主である彼と井ノ原さんと時を過ごした。
人間に仕えるのがアンドロイドの義務であり、生き甲斐であり、システムだから。
彼らはアンドロイドの最新開発をしている有名な二人とすぐに知った。
そして、もう一つ知った事がある。
彼と井ノ原さんともう一人、開発をいっしょにしていた人がいたことを
名前は『長野 博』
実験中の不慮の事故で亡くなったらしい。
彼と井ノ原さんが口走ったあの名字。
そして、俺と同じ顔に同じ名前。
長野さんを摸して俺が作られたのは一目瞭然だった。
でも、別にそれは当たり前なことだった。
亡くなった人を摸して作られるアンドロイドなんてこの世に数万、数千といる。
それで、人間の哀しみが少しでも癒えるのなら、それこそお仕えした冥利に尽きるというものだ。

井ノ原さんは俺のことを一度“長野君”と呼んだが、彼が“長野じゃない・・・・ヒロシだ”と言った。
確かに俺はアンドロイドのヒロシで人間の長野博にはなれない。
例え、どんなに井ノ原さんが望んでもなれないのだから。


それが、人間とアンドロイドの超えられないことわり



10月9日
言付けされた事とやるべき仕事が終わり、静かに降り出した雨を眺めていると彼からメールが届いた。
すぐさま、メールを開け内容を確認する。
内容は傘を持って迎えに来て欲しいという簡単なものだった。
機械が溢れる世界でも操れない物の一つが天気で、今日の天気も急に変わったもの。
火元を確認し、玄関の傘立てから彼の傘と井ノ原さんの傘を取り出す。

しかし、傘立てには一つの傘が残されている。

誰の?
この研究所には傘を必要とするのは彼と井ノ原さんだけだ。
じゃあ、誰の傘?
グルグルと堂々巡りの問題に答えがでない。
早く行かなければいけないのに、行けない。
答えを出すまではいけない。
俺はアンドロイドだ。
アンドロイドは人間の命令には絶対服従だ。
なのに、なんなんだ。


逆らおうとする命令はどこから出ているの?


ピッ
緊急信号を彼と井ノ原さんの携帯に送る。
俺はおかしい。
どこか一部のデーターがシステムがおかしくなっているんだ。
もう自分のメンテナンスでどうこうできる問題ではない。
修理の手間を掛けさせてしまうが、しょうがない。
・・・・しょうがない?
何がしょうがないのだ。
俺はアンドロイドで、壊れたら換えの効くロボットだ。
なのに、何故俺は主達の手間を掛けてさせてまでいる必要がある。
壊れたアンドロイドは必要ない。



俺は静かに降りしきる雨の中に歩き出した。
目的は無い。ただ、どこかへ行ければいい。
ザァー・・・・
雨は勢いを増し、人間の目では見えないほどになった。

『ここで何をしているの?』
「っ!?」
突然、聞こえる人の声。
振り向いても誰もいない。
人は一人もいないのに、声だけははっきりと確認できる。
やっぱり壊れていたんだとはっきりと認知できた。
『どうして、壊れていると思うの?』
人がいないのに声が聞こえる摩訶不思議な現象を認知しているのだ。
それ以上の理由がどこにある。
『・・・キミは本当にアンドロイドなの?』
そうだ。俺は一年前の10月9日に出来たのだから。
『じゃあ、キミが最初に彼…坂本君に会った時に感じたものは何?
井ノ原の落ち込んだ顔を見た時に感じた物は何?』
・・・それは、システムがそう出来ているからっ!


『キミにはシステム自体存在しないよ』


ノイズのように響く雨音の中に俺だけが認知できる声ははっきりと答えた。


『キミの中には僕の脳が組み込まれている。
それを伝え、キミは知らず知らずの内に自分で動いているんだよ。
誰かが作ったシステムでもプログラムでもない。
キミ自身が感じて、考えて、覚えているんだよ。』
でも、身体は機械で出来ている。


『それは、僕が死んだから。』
・・・あ。
『やっと僕が誰だか分かった?』
柔らかい微笑みさえ見えそうな優しい声。
『そうだよ。僕はもう一人のキミ。やっと気付いてくれた?』
どうして、貴方が。
『・・・キミはどうしたいの?』
え?
『キミはアンドロイドなの?それとも人間なの?』
・・・・。
『黙っていても答えは出ないよ。答えはキミにしか出せないから、
キミが出さないといけない。』

最初に、彼に会った時にこみ上げて来たものは、懐かしさ。
最初に、井ノ原さんの酷く落ち込んだ顔を感じた痛みは、悲しさ。
手間を掛けてさせてまでいっしょにいたいと思ったのは、離れたくないから。

それが、今となってやっとその感情に気づけた。



人間になりたい。



『その言葉を待ってたよ。これでやっとキミに長野博として生きた全てをあげられるよ』
様々な映像や音声や記憶の全てが雪崩のように流れ込んでくる。
『これでキミはもう、アンドロイドのヒロシじゃない。』

『キミは人間の長野博だよ。』

雨が上がり、雲間から日が差すと共に声は薄れていく。
目の前にはうっすらと同じ顔をした男が優しい笑顔で立っている。
『これでやっと安心してあの世にいけるよ』
同じ人間は二人といられないから、消えていく。
それが、さだめ。
『博』
何?
『後、頼んだよ』
うん分かったよと心からの笑顔で答えると声は聞こえなくなった。
「ありがとう・・・」


「ヒロシ!」
呼ばれて振り向いた先には、息を切らしてずぶ濡れ状態の二人。
二人とも声を出さず、ただ俺を見つめている。
二人の瞳を見つめて言った。
「一年待たせてごめんね。」
自然と口から出た言葉に目を丸くする。


「ただいま。坂本君、井ノ原」


「おかえり、長野」
「おかえり!長野君」


俺が最初に見たのは、俺達を照らす雲間から差す優しい“光”だった。





                           END






あとがき
今回の長野さんの誕生日小説にカミセン出せなくてすみません!
ほっんと申し訳ないです!中盤ぐらいになって誰か一人ぐらい…って思ってましたが、
無理でした…。
でも、無理矢理出すぐらいならいっそのこと出さなくていいやっ!
なんて最後の方では思ってましたけど。(潔すぎますよ!)

今回は近未来SF風(笑)パラレルでしたが、
今となってなんで、私こんなの書いたんだ?って思ってます。(オイ)
当初の予定はもっと普通のヤツを書く予定が…。


ちょっと補足説明ですが、
人間の長野君を亡くなってから、坂本くんといのっちは
人間の脳の伝達信号(身体を動かす命令と思ってください)を電子信号に替える装置を開発。
その装置を搭載したのがアンドロイドのヒロシです。
通常のアンドロイドはシステムと制作者が作ったプログラムが必要不可欠ですが、
ヒロシは装置のお陰で人間と同様に動き、考えることができます。
だから、坂本君は成功したと思って「起きろ、長野」とアンドロイドのヒロシではなく
人間の長野君の名前を呼んだのです。

ちなみに、話の中でのいのっちの黒ブチ眼鏡は
実際私の友人が持っているのを見て、なんとなくかけさせました。
最初は青ブチの眼鏡だったのですが、いまいちインパクトに欠けるのでコッチにしました。
あ、それと白衣は私の趣味ですから。(笑)
それにしても、この話の容量が大体、坂本君の誕生日小説の2倍以上あるんですよ。(苦笑)
愛の大きさの違いか。

最後になりましたが、
長野くん誕生日おめでとう!!!
                          2005/10/4(Tue)






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