VI.ユメニアイニ



長野君と別れて数分。
始発も出ていない時間帯。
でも、真っ直ぐとまだ明けない暗闇の中を歩いていく。


着いた先は、中学の頃の母校。

チッ、チッ、チッ

時を刻む秒針の音にここにいると確信を持つ。
正門は当たり前のように閉まっていて、裏口に回る。
裏口から学校内に入り、一階にある職員室を覗く。
誰もいない暗い職員室の中で卓上ライトに照らされている人が一人。
暗くても分かり、息を飲んだ。
自分だ。
もう一人の岡田准一が目の前にいる。
でも、元は同じ顔をしているが目の前にいるもう一人の自分は少し違う。
向こうの方が少し疲れが見えたが、それでも少し幼く見えた。
ふと、ある人が言っていた言葉を思い出した。
『人間20歳までは親の遺伝だけど、20歳を超えてからはその人の人生が顔を変えるんだ』
教師とアイドル。
同じ岡田准一でもかけ離れた人生を送った二人。
彼はきっと教員人生をずっと歩んでいくだろう。
一歩ずつ、一歩ずつ。
俺がV6としてみんなと歩んできたように。
(自分も頑張らんとな…)
この世界で頑張っている自分がいると分かっただけで満足で、その場を後にした。


学校近くの公園。
ベンチに座り、思いを馳せる。
健君、いのっち、剛君、坂本君、長野君、そして俺。
それぞれが違った人生を送って、幸せだった。
でも、俺はこれ以外の人生があることを知っているから
やっぱりみんなとの繋がりの無い人生はいやだ。
好きこのんで芸能界に入ったわけでは無いが、今となっては感謝している。
中学三年の時に訪れた教師とアイドルの運命の分かれ道。
この道を選び取れてよかった。
そして

みんなに会えてよかった。

と心から思う。
だから、神様。
「俺に返して…」
みんなとの絆、みんなの帰る場所である『V6』を。

チッ、チッ、チッ、カチ。

時を刻む秒針の音が止まった。
東の空が明るくなってゆっくりと、ゆっくりと朝日が昇っていく。
手に持っていた花が光の泡となって消え、光が身体を包み込む。
『おかえり』
その声が耳元に聞いたのを最後に意識が遠のいた。



ぼんやりと見える5人の驚いた顔と見慣れない天井。
「どうして…いるの?」
どうしてみんなが自分の部屋にいるんだと記憶の糸をたぐり寄せるが、
思い出せないので聞いてみる。
寝起き独特の擦れた声に、坂本君が苦笑した。
「お前の誕生日の前祝い。やってただろ?」
「あ…」
言われて、今の状況と記憶が繋がった。
そうだ、俺の誕生日の前祝いだ!と言っていのっちを筆頭に俺の部屋に突撃してきたんだ。
それでみんな酔って雑魚寝状態だったんだ。
「起きてみたら、岡田が寝言で俺らの名前呼んでいたから」
“ねぇ?”と健君に話を振るいのっち。
「そうそう、それで顔を覗き込んだら、岡田が起きたの」
“せっかく何か食べさせようかと思ったのに”と言う健君。
見たら、健君の手には昨日の残りのお酒のつまみの袋を開けて持っていた。
「で、お前みんなの名前を呼ぶ程の夢ってどんな夢だったんだよ」
剛君の質問に一気にみんなの目線を集める。
「みんなが違う人生を歩んでいる夢」
はぁ?と声が聞こえそうな、みんなの顔。
更にみんなに思い出す様に遠い目で話を続ける。
「俺はみんなのことを知っているけど、みんなは俺のことを知らないの。
俺みんなと会ったんやけどみんな今とは全然違う人生で…それでもみんな幸せそうやったで」
「岡田」
「ん?」
長野君に呼ばれて見ると柔らかい笑顔で俺を見ていた。
「俺達は今も幸せだよ」
突然、横からポンポンと軽く叩かれた。
いのっちだ。
「何見てきたか知らねーけど、俺はこれで充分!つーか、お釣りがくるぐらい!」
「俺も俺も!みんなと会えない人生なんてぜーーーーったい!嫌っ!剛もそう思うでしょ!?」
「お、おお…」
真っ向から否定する健君とそんな健君に押され気味の剛君も答える。
「健ちゃんたら〜そんなに俺と会えないのが嫌なの〜?」
「え?別に井ノ原君となら会えなくてもいいや」
体育座りで無言でヘコむいのっちと笑う健君と剛君を余所に坂本君が隣に来た。
「長野の言うとおり俺達は今も幸せだから、V6にいなかった方がよかったとか思うなよ」
少し前に考えていたことを言い当てられて反射的に坂本君の方を向いたら、
坂本君と長野君が顔を見合わせてクスクスと笑った。
「岡田もまだまだ末っ子だね」
「最近すっかり大人になったと思ってたけどな」
“背もすっかり高くなって”とポンポンと頭を軽く叩く仕草も坂本君がやるのは久しぶり。
「坂本君ジジくさーい」
「「ジージイ♪ジージイ♪」」
「誰がジジイだっ!」
狭い部屋の中をいのっちと剛君と健君を追っかける坂本君。
「まったく…大人げないんだから」
ため息一つ付き目の前の追っかけ劇を見守る長野君。
でも、その目はすごく、すごく優しく穏やかな目。
あ、剛君と健君がいのっちを盾にした。
いのっちが捕まった。
首が締まって苦しそう。
「もう、しょうがないなあの人達は…」
長野君が隣から離れて、坂本君といのっちの間に入った。
隣では剛君と健君がまだ笑っている。
見ているだけで幸せになるその光景をぼんやりと眺めていた。
「岡田!」
健君の甲高い声に我に返ると、“こっちこいよ”と手招きする。
ベッドから降りて、少し冷たい床に足をつけみんなに近寄る。
シャッ
カーテンを勢いよく開けた先には明るみ始めた東の空。
北海道の澄んだ空気と幾重にもなる自然の色のグラデーションが圧巻で、しばらく見とれてた。
「岡田」
振り返るとみんな笑顔で、
「「「「「誕生日おめでとう!」」」」」
少し照れくさいけど、一番嬉しい言葉をかけてくれる。
「ありがとう」
そして俺も10年の想いとこれからの想いを乗せて、はにかんだ笑顔でみんなにありがとうを言った。



東の空が明るくなり、オレンジ色の太陽が昇り出す頃



僕等は歩き出す。





                           END






あとがき


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